アタシの✖︎✖︎話

50代のなんやかや

算段 89/1000

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いつ何が起こるかわからない。子どもたちと離れてしまうこともあり得る。そう思った私は「いざ」というときの算段をした。これはあの男が狂暴になって命の危険を感じた場合のシミュレーションだった。

我家の家計はほんの少しの余裕もなかったため、母にお金を借りた。私と子どもたちで10万円ずつ隠し持った。全員の電話番号と祖母の住所も書いてある。何かが起きたらこれを持って逃げろ。できればスマホと充電器も持って。待ち合わせ場所は自宅から離れた飲食店。どうにもならなくなったら、祖母の家に行け。

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逃げ道は大切だ。このことが私にとって御守りとなり、希望を持っていられた。見つからない自信はあった。あの男は狂っている。あの男は自分の怒りに振り回されている。

ありがたいことに、この御守りは使わずに済んだ。

我が家に静けさが戻ってきたとき、あの恐怖がもうないことが信じられなかった。でもいつかまた…不安はいつも胸にあった。

あの時の 88/1000

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家の中はいつも張り詰めていた。

娘は心を閉ざし、自分を傷つけた。

息子は力を付け、いつでも闘う気持ちでいた。

家族の誰かが加害者になり、誰かが被害者になるのは時間の問題だと思っていた。

湖に張った薄氷の上を歩くような、あの時のあの緊張感。薄いカミソリでひと筋ずつ、魂に傷をつけられるような鋭い痛み、恐怖。

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帰りたくない場所に帰らなければいけないのは、子どもたちも同じだったろう。

2人の子どもたちへ…

温かい家庭、愛情と信頼でつながった両親、固い絆で結ばれた家族になれなくて、ごめんなさい。でも信じてほしい。私は子どもが欲しくて生んだ。あなたたちと出会えて幸せだった。一生懸命に育てた。娘は思慮深く、息子は努力する人になったと誇りに思う。

常に「今」は通過点でしかなく、私たちはたまたま困難な道を歩いてしまった。だけど歩き続ければ必ず未来はやってくる。幸せになる道は自分で作れるのだと信じて欲しい。

傷③ 87/1000

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怒りのあまり気が狂うなんてことはあるのだろうか。

最終的に私の心を圧倒的に支配していたのは、怒りだった。怒りを抱えたまま暮らすのはとても苦しかった。言葉の通じない異星人のような人間との会話で怒りが増す。どうやっても理解し合えない。それどころか思いがけない方向から毒矢が飛んでくる。

気が狂ってしまいたかった。何もかもわからなくなってしまいたかった。自ら命を絶つよりはずっとマシだろう。変わり果てた私の姿を見て、親しい誰かが「苦しかったんだな」と気づいてくれるだろう。

だがそれは無茶な願いだ。わかっている。

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決して親が言ってはならない言葉。しつけと勘違いした非情な言動。優位に立ちたいが故の否定、批判、無意味な議論。なじる。責める。追い詰める。しつこくされて過呼吸を起こした私の枕元で「オレを無視するのか」と怒鳴っていた。

ねえ、あなたはあんなことして幸せだったの?あれがあなたが描く夫婦の姿なの?

 

傷② 86/1000

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数え切れないほどのくだらないこと。何年も繰り返された。

いつか慣れるだろうか、と思ったが、それは叶わなかったようだ。お母さん、私はまだ我慢が足りないの?と心で問いかけた。神さま、もっと我慢するので、子どもたちを守ってください、とも。

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妊娠中に「子どもを育てるのはオレじゃないからなぁ」と言った。

言うことを聞かない娘のことで、私に「子育て失敗したな」と言い放った。

知り合いが流産したのは立ち話をした私のせいだと言った。

韓国について勉強していた娘に「自慢するな」と言った。

息子が泣くまで追い詰めて「女の腐ったような泣き方をするな」と言った。

実の母親に電話で「早く死んでくれよ」と叫んだ。何度も。何年も。

オレに死ねって言うのか。オレが死ねばいいと思ってるのか。何度も何度も言われた。

一つ一つはちっぽけな暴言だ。暴力はほぼない(ゼロではない)。ずっと言われ、ずっと聞かされ、心が疲弊したのだ。

傷① 85/1000

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離婚について弁護士に相談したときのこと。

無料相談は回数と時間が厳しく制限されている。質問を絞り込み、確かな言葉を聞き出す…のはずが期待したような回答は得られず、時間は残っているのに私は黙り込んでしまった。

若い女性弁護士が尋ねた。「一番傷ついた言葉はなんですか?」

私は答えられなかった。答えたくなかった。

全てが一番で、全てが一番ではない。それが私の答えだ。

あれから何度も考える。どれが一番傷ついたのか?

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こんなことを言われた、こんなひどいことをされた。どう思う? 傷ついた気持ちをどうにかしたくて、やっとの思いで人に話したことがある。が、なんとも薄っぺらな言葉が返って来て打ちのめされた。私の身に起きていることは誰にも理解されない、と気づき、二重三重に傷ついた。以来、人に話さなくなった。

私の身に起きていたことは、言葉にするとちっぽけで、誰にも気付かれない、くだらない出来事の連続だった。

今月の映画 84/1000

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万引き家族」2018年

家族ってなんだろう。

子どもに必要なものってなんだろう。

親の責任ってなんだろう。

私が我が子に伝えてきたこと「好きなことをやれ。でも法を犯すな。人を裏切るな。」…この家族はこれらを全部やっている。好きなことを(好きなように)やって、法を犯し、多くの人を裏切っている。家族でさえも。

愛情で繋がっていたとしても彼らは反社会的な存在だ。スクリーン上であっても、それは看過されない。

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社会との矛盾に気づき始めた少年は、別の道へと踏み出すきっかけを掴んだ。

親の庇護がまだまだ必要な幼い少女は、やっとNOを言えるようになった。

貧困の中にとどまる大人を尻目に、子どもたちはどんどん成長していく。ハッピーエンドかどうかは立場で変わる。だが未来を感じられた。

関係ないが、役者を両親に持つ安藤サクラは、なぜこんなにも「貧乏かあちゃん」が似合うのか。取調べ室での演技は素晴らしかった。

今月の映画 83/1000

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「星の子」2020年

辛くも愛に溢れた映画。

救いを求める人たちの救いようのない話、と言ったら言い過ぎか。新興宗教にハマった家族の話だ。

救いを求める人たちは得てして純粋だ。側から見れば幼稚にも滑稽にも見える。しかし本人たちは愛を拠り所としているからか、何事にも動じない。

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こんな世界で人生を全うできるなら幸せだろう。しかし現実はそうはいかない。

宗教にどっぷり浸かった親のもとに生まれた二世たちは、さまざまな価値観の中で成長し、あるとき疑念を持つ。主人公の姉は逡巡しながらも外の世界へ飛び立った。

姉の幸せを願いながら、両親の元にいることを選んだ主人公。大好きな人に傷つけられもした。迷い、苦しみもがき、彼女は強くなる。影の存在を知った愛はますます気高くなるのだ。

そしていつか…今は非力な存在の彼女が行動を起こす日が来るのではないか。彼女の愛は形を変えながら成長し、飛び立つときが来るのだろう。