アタシの✖︎✖︎話

50代のなんやかや

今月の映画 82/1000

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「ミッドナイトスワン」2020年

邦画に興味はなかったのだが、家で作業しながらBGM的に流すには字幕がない方が良い。Netflixで適当に漁り、適当に流す。

ゴメン、こんなに感動するとは。

草彅クンの女装ばかりフォーカスされていた印象しかなかった。草彅クンのゴツゴツしたお顔で女装ってどうなん?と思っていたが、そんなの一切気にならなかった。体だってゴツゴツしてる。歩き方もキレイじゃない。でも、だから、リアリティを感じた。

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笑顔のない主人公ふたり。希望のない毎日に笑みなど浮かぶはずもない。差別と貧困の中で、それでも自分らしくあろうとする切ない姿に、かつての自分もうっすら重なることもあった。

(もちろん彼女たちほど過酷な人生ではない)

性差について悩んだこともない人間にとって、その世界を垣間見ることができた。現実と違うとか、差別を助長するといった意見もあるようだが、映画は面白ければ良いと思う。

反芻③ 81/1000

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傷つけられた言葉を思い出してはいけない。心に浮かべるだけで再び傷つく。私の言葉ではないのに。

繰り返し繰り返し思い出し、そのたびに傷ついた。家の中、車の中、ファミレスもスーパーもそれらは潜んでいた。顔を洗っているとき、料理をしているとき、楽しいときも悲しいときも、それらは私を過去に戻した。

子どもの顔を見ては思い出す。オレが育てるんじゃないからな。その言葉の10数年後には、子育てに失敗したなと言われた。

見知らぬ妊婦を見ては思い出す。友人が流産したのは私のせいだ、と。

毒を吐く男の支えになりたいと思っていたときもあった。お前は敵だ、と言われた。

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どんな言葉も飲み込んでいたら、それはまさしく体内に取り入れたことになる。消化されず、骨の髄から髪の先、爪の先にまで行き渡り、血管に取り込まれていつまでも体内を巡る。

行き場のない怒りと悲しみ。私は苦しみながら生きるしかないのか。答えが欲しかった。

反芻② 80/1000

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あれからあの男には一度も会っていない。最初は電話をした。離婚の話だ。だが声を聞くと体調が悪くなる。相手が「泣く、怒る、脅す」ばかりで心が疲弊してしまったので、電話はやめた。

LINEも無視した。必要なことは私の母を経由し「今回はLINEを見て」と連絡が来る。保険とか税金とかそんな話だ。

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目の前の嵐は過ぎ去ったが、先のことを考えると不安しかない。情緒不安定な上の子、まだ10代前半の下の子、貯金は底をついている。一人住まいの母、もう若くはない自分。真っ暗な中どこへ向かえば良いのか。

「ここで、このまま生きていくしかない」

いつしかそう思うようになった。だが永遠ではない。それだけが希望の灯りだった。

数年前から私はいつも天に向かって手を合わせていた。誰かに支えて欲しかった。守ってもらいたかった。強制的に方向転換してくれた亡き父に感謝し、見えない存在に毎朝祈った。子どもたちが飢えませんようにと。

反芻① 79/1000

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深夜の警察騒動からの数週間、どうやって過ごしていたのかほとんど記憶にない。思い出そうとすると、畳の上に座り込んで一心不乱に編み物をしていた自分の姿が見える。

もう怒りもないし悲しみもない。恐れも悔しさも何もない。目の前のことを変わらずこなすだけだ。心が死んでいたように思う。

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「今月中に」と言った、その月末が来た。あの日以来あの男とは初めて口をきいた。予想通りの言葉を発した。

「今は出ていけない。待って欲しい」

「じゃあいつ?」とすかさず尋ねたが、相手は黙り込んだきりだった。

あの惨めな夜、勇気を出して暴れて警察を呼んだのに、結果がこれだ。数週間この問題を避けていたに違いない。何が待って欲しい、だ。人をバカにするのも大概にしろ。

数日後、思いがけないことが起こる。

人生とは本当にわからない。あいつに単身赴任の辞令が出た。その日は私の父の命日だった。見えない力を信じるようになった瞬間だった。

語ろうかな⑩ 78/1000

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車から毛布を出して羽織った。パジャマ姿に傘と引きちぎられたバッグ。惨めだったがもう引き下がれない。

警官たちの会議は続いた。このパジャマ女にたったひと言を言わせていいのかどうか。また暴れ出すのではないか。

私の見張り役の警官は、家に帰ったらあなたはますます危険に晒されるのではないかと言った。だから何だと言うのか。子どもが待っている。私はあの家に帰るしかないのだ。

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どれぐらい待ったのか。とうとう私はチャンスをもらった。(練習までさせられた)

ガードレールの向こう側にはあの男と警官が1人。こちらは10人ほどの警官に囲まれていた。

「今月中に家を出て行って欲しい」。棒読みのその言葉にあの男は驚き、言葉の意味を理解したのか固まっていた。

もうどうでも良かった。このあと陰惨な事件が起きたとしても、これだけの証人がいる。お得意のセリフ「そんなの聞いてない」とは言わせない。

私はタクシーで帰らされた。

語ろうかな⑨ 77/1000

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死にたい衝動を止めるために、

暴言を吐くこの男を黙らせるために、

私は警察を呼んだ。不審者として取り囲まれたのは私だ。構わない。私が生き続け、あいつが黙ればいいのだ。

少し離れたところでは、あの男が涼しい顔をして別の警官と話をしていた。私の飲酒、ドラッグ、これまでの奇行などについて尋ねられているのが聞こえた。どれも当てはまらない。当たり前だ。私は溜まりに溜まっていたものが爆発しただけだ。

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生活安全課?という、いくらか物腰の柔らかい警官が現れた。この人物が、私が危険人物ではないと判断してくれた。

その時の私の言い分はたった一つ。「『家を出て行ってほしい』とあいつに伝えたい」と。普段なら無視されるか暴言で返されるだけ。挙句に私の言葉はなかったことにされる。警官の前で伝えることが重要だった。たったこれだけの希望を叶えられるのに、さらに時間を要した。立ったまま、10人ほどの警官の会議が始まった。

語ろうかな⑧ 76/1000

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深夜のお迎えは続いた。

これは本人次第だ。電車で帰る時間に仕事を切り上げれば良いだけのこと。ワガママを増長させ、くだらない習慣を作ってしまった。もちろん私も意図せず加担した。

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あの夜も同じように呼び出された。秋。雨。深夜。風呂上がりの濡れた髪でパジャマ姿だった。

いつもなら帰りも私が運転するのだが、あの夜は疲れていた。運転を代わってもらい、助手席で私は言った。「いつまで私に迎えに来させるつもりなの?」。

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反応は予想通りで、烈火の如く怒りだした。暴言を吐きながら運転している。横からそれを眺めていたが、ふと自分の中で「プチッ」と何かが切れる音がした。

車から飛び降りたい衝動が溢れた。死んでしまいたい、なんで私が死なないといけないのか。死んでしまいたい、子どもの成長を見届けたい。死んでしまいたい、死ぬのはコイツだ。

私は車から半身を出し、警察を呼んでくれと誰もいない都会で空に向かって叫んだ。