あの男はなぜ、いつも怒っていたのだろう?
何に怒っていたのだろう?
私も子どもたちも、あそこまで怒られることはしていない。気にさわるポイントもわからないままだ。
単にイライラをぶつけて来ることもあった。朝起きてイライラしている。仕事から帰って来てイライラしている。
マンションの廊下に響く足音でわかる。
玄関に入った時の息遣い、鼻息の荒さでわかる。
何にそんなにイラつくのか。それは私たちに関係あるのか。イライラが本人の外側におびただしく漏れていることに、本人は気づいているのだろうか。
何もわからないままだ。
わかっていることはただ一つ。怒りもイライラも周囲を不幸にする。
あの顔、あの目つき。毒を帯びた数々の言葉。
私は絶対に忘れない。恐怖で心が凍りつき、これ以上怒られないようにと緊張の中で過ごした日々を。子どもには笑顔を向けようと必死でいたことを。心はバラバラで自分がなくなるようだった。